大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(う)843号 判決

被告人 平久江吉郎

〔抄 録〕

原判決は、その理由において、被告人及び原審相被告人菊池吉太の罪となるべき事実として、「右両名はいずれも自動車運転者なるところ昭和三一年七月二八日午後六時頃被告人は普通乗用自動車茨三-三三〇号(長さ五、〇米、幅一、八米)を運転し久慈郡大子町大字久野瀬地内道路を大子町大字袋田字割山方面から、袋田駅方面に向け時速約三八粁で進行し同所下り勾配の見透しのきかない幅員五、七米程の道路の曲角に差しかかり、右菊池吉太は普通貨物自動車茨一す三四五号(長さ七、〇米、幅二、三米)の荷台に軽油二〇〇立入長さ八八糎、直径五七糎、円筒形のドラム罐二本(重量合計約三七五瓩)を積載し、荷台に笠井弘外一名を助手席に谷田部一男を同乗させて運転し前記道路を反対に袋田駅方面から大子町大字袋田字割山方面に向け時速二五粁で進行し同所の上り勾配の見透しのきかない前記曲角に差しかかつたのであるがこのような場合自動車運転者には互に反対方面から進行してくる車馬等が突然自己の自動車の直前に現われて衝突する等不測の事故を惹起する危険のあることを考えて警音器を吹鳴するは勿論、何時でも急停車するかあるいは進行方向を変えてすれちがい通過する等事故の発生を未然に防止できる程度の徐行をなし、なお、菊池吉太においては前記ドラム罐を積載するに際しドラム罐が円筒形で移動し易いことにかんがみ荷台の側面に接着させ、これを緊縛し、あるいは荷台の同乗者にドラム罐に接近することの危険なことを警告しおく等の措置をとらなければならない業務上の注意義務があるのにかかわらずこれを怠り二本のドラム罐を荷台の側面に接着させず横倒しに左側寄りに前面に向け平行に並べスコツプ二本、ロープ一束を罐の下に差し込んだだけで笠井弘等に警告を与えることなく放任しておき被告人及び菊池吉太両名とも単に警音器を吹鳴しただけで徐行しなかつたため互いに相手の自動車を約一五米程隔てて発見し狼狽して急停車の措置をとつたが間に合わずかつ互いに左方に避譲する機会を失い被告人の乗用車前面と菊池吉太の貨物自動車の前面右角とを激突させ右貨物自動車の荷台に積載してあつたドラム罐は激突による衝動と自車の急制動による衝動との競合により急速に移動して荷台の側面に突き当つて反転し該ドラム罐を片手でささえながら立つていた笠井弘の身体の左側面に打ち当り因つて同人の左脛骨及び左大腿部に治療日数約三ケ月間を要する傷害を負わせたものである。」との旨の事実を認定判示し、法令の適用として、刑法第二一一条その他を適用しているのであるが、これに対して所論は、本件において、原判示笠井弘が原判示のような傷害を受けるに至つたのは、原判示貨物自動車荷台上の積荷が急激に前方に移動したためであるが、このように右積荷が急激に移動したのは、該積荷の積方が悪かつたことと、原審相被告人菊池吉太が右貨物自動車を急停車させたこととが原因となつたものであつて、被告人の乗用車が急停車したことや、その急停車直後右貨物自動車と軽く衝突したことなどは、右積荷の移動とは物理的にも法律的にも因果関係がないのである。もつとも、菊池が貨物自動車を急停車させたのは、被告人の乗用車が走つて来たためではあるが、それは、本件傷害の直接原因ではない。故に、被告人としては、原判示曲角を通過する際に、原判示のような徐行をしなかつた点につき、交通取締法規の違反があるとしても、そのことと本件傷害との間には、相当因果関係の存在が認められないのであるから、業務上過失傷害罪は成立しないものというべく、従つて、被告人の所為が同罪を構成するものとして有罪の言渡をした原判決は、事実を誤認し、ひいて法令の適用を誤つたものであつて、その誤認及び誤が判決に影響を及ぼすことが明らかである旨を主張する。

よつて案ずるに、原判決の援用する証拠を総合して考察するときは、右所論の点をも含めて原判示罪となるべき事実のすべてを肯認することができるのである。すなわち、原判示笠井弘の本件受傷が、直接には、原判示貨物自動車荷台上の積荷が急速に移動したことに因るものであることは、所論のとおりであるが、しかし、原判決挙示の証拠を総合するときは、右の積荷が急速に移動するに至つたのは、所論がその原因として挙げている右積荷の積方が悪かつたこと及び貨物自動車が急停車したことのほかに、右貨物自動車が被告人の乗用車と衝突したことも、その原因の一部をなしているのであつて、右三つが競合して前示積荷移動の原因となつたものであること、並びに、右のように貨物自動車が急停車しなければならぬようになつたのは、反対方向から被告人の乗用車が走つて来たためであり、右両自動車が衝突するに至つたのは、原審認定のように、被告人及び原審相被告人菊池吉太の両名において、事故を未然に防止できる程度の徐行をなすべき業務上必要な注意義務を怠り、徐行しなかつたことに基因するものであることが認め得られるのであるから、右両名の以上の各業務上過失と前示笠井弘の本件傷害との間には、いずれも相当因果関係が存するものと認めるのが相当であるといわなければならない。故に、本件傷害の原因が貨物自動車の側のみに在るものとして、被告人の所為と本件傷害との間に相当因果関係の存在を否定する所論の主張は、ひつきよう、独自の見解に基くものであつて、到底認容することができない。してみれば、原判決がその挙示する証拠によつて原判示事実を認定したことは、相当であつて、記録を精査検討してみても、原判決の認定が誤つているとは考えられない上に、被告人の原判示所為が刑法第二一一条に該当することは、明らかであるから、原判決には、所論のような判決に影響を及ぼすべき事実の誤認及び法令適用の誤があるものということはできない。論旨は理由がない。

(中西 山田 鈴木)

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